オバマ米大統領 お別れ演説要旨

2017/1/11 22:49
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 《大統領退任》

 毎日あなたたちから学び、あなたたちが私を優れた大統領、優れた人間にしてくれた。20歳代前半でシカゴに初めて来て、自分探しを続け、生きる目的とは何であるのかを追い求めていた。

 ここで普通の人々が関与し、集結してそれを求めたときに、変化というものが起こるということを知った。大統領として8年を過ごした後でもそう信じている。これは単なる私の信念ではなく米国の精神、すなわち自治という果敢な試みを支える力になっている。

 《レガシー(政治的遺産)》

 8年前、米国が大きな景気後退から脱し、自動車産業を再興し、過去最大の雇用を創出し、キューバ国民と新たな時代を迎え、戦火を交えることなくイランの核兵器計画をやめさせ、米同時多発テロの首謀者を引きずり出し、結婚の平等を勝ち取り、新たに2000万人の国民に健康保険の権利を確保すると言ったら、その目標は少し高すぎると言われただろう。

 しかし我々はなし遂げたのだ。あなたたちがなし遂げたのだ。あなたたち自身が変化なのだ。あなたたちが人々の希望に応え、あなたたちだからこそ、(オバマ政権の)出発点より米国はより良く、より強い場所になった。

 《次期政権と民主主義》

 10日後、世界は米国の民主主義の新たな特質を目撃する。自由に選ばれた大統領の平和的な権力の移行だ。ブッシュ元大統領がそうしてくれたように、私はトランプ次期米大統領に現政権が可能な限り円滑な政権移行を確実にすると約束した。米国政府がいま直面する多くの課題に対応できるかどうかは我々すべてにかかっているからだ。

 米国は困難に立ち向かうために必要なものをすべて持っている。米国は地球上で最も裕福で力があり尊敬されている国だ。若さや意欲、多様性、開放性、リスクや刷新に対する無限の能力は未来が我々のものだということを意味している。しかしその潜在力は民主主義が機能したときにのみ現れるものだ。

 今夜、最も集中して語りたいのは民主主義の状況だ。民主主義には統一性は必要ない。建国した人たちが考えたように、民主主義は見た目の違いを超えてともに一つとなって行動する結束という基本意識が必要だ。

 《経済の成果と課題》

 民主主義はすべての人が経済的な機会を持たなければ機能しない。素晴らしいことに、いま米国経済は再び成長しており、賃金や住宅の価値なども上がり始めている。貧困は減ってきている。記録的な株高の中でも、富裕層はより公平な税金を払うようになっている。失業率は約10年ぶりの低水準だ。無保険の比率は下がり、健康維持にかかる費用は過去50年で最低の伸び率だ。

 ただこれまでの実績をもってしても、まだ十分ではないと分かっている。厚みを増す中間層や新たな中間層の犠牲のもとに少数の人たちが繁栄していては経済はうまくいかないし、高い成長も望めない。激しい不平等は民主的な理想を傷つけるものだ。

 上位1%がより大きな富を蓄える一方、内部や地方の人々は取り残されていて、政府は権力者の利益のためだけに仕事をしていると信じている人たちがいる。政治における不信感や対立につながっている。

 子どもたちが必要な教育を受け、労働者がよりよい賃金を求めて団結できる社会にしなければいけない。社会保障を時代の変化に合わせ、税制を改革して企業や個人が納めるべき税金を納めるようにしなければいけない。全ての人に機会が与えられなければ、不満や分断は今後、先鋭化するだけだ。

 《人種問題》

 人種はいまだに我々の社会で根強く、しばしば分断する要因であり続けている。人種の関係は何十年も前に比べれば改善した。統計だけではなく、若い人々の姿勢をみれば分かる。

 だがまだあるべきところまでは来ていない。すべての人たちがもっとやるべきことがある。様々な経済的問題を懸命に働く白人の中間層と少数派の争いとみなしてしまえば、労働者はささいなことで争い続けるままになり、富裕層は自分たちの私的な空間に一段と閉じこもってしまう。移民の子どもたちへの投資を拒めば、我々の子どもたちの未来をも損なってしまうことになる。

 未来に向けて人種問題を真剣に考えるために、採用や教育などにおける差別に法律で対抗していかなければいけない。合衆国憲法や我々の高い理想が必要としているものだ。だが、法だけでは不十分だ。人々の心が変わらなければいけない。自分と違う人々の立場を理解しようとしなければならない。

 《気候変動》

 気候変動問題に立ち向かおう。われわれはわずか8年間で原油の外国への依存を半減させ、再生エネルギーを倍増し、地球を守ると約束する協定に世界を導いた。

 しかし大胆な行動がなければ、子どもたちが気候変動について意見を戦わせることはできない。気候変動による災害や経済的な混乱、住める場所を求めた難民に対処するのに手いっぱいになってしまうだろう。

 今こそ、この気候変動問題の解決に向けた最適な方法を議論すべきだ。この問題を単に否定することは次世代の人々を裏切るだけでなく、イノベーションや実践的な問題解決という米国に欠かせない精神をも裏切ることになる。

 《テロとの戦い》

 第2次世界大戦後に我々がほかの民主主義国と築いた法の統治や人権、宗教や演説、集会、報道の自由といった原則に基づく秩序に対し、イスラム教に関わる暴力的な狂信者が異義を唱えている。最近では自由市場や開かれた民主主義、文民社会を自分たちの権力への脅威とみなす独裁者たちもこの秩序に挑んでいる。

 過去8年間、軍や情報当局や捜査機関、外交官らの努力により、米国本土を攻撃できた外国のテロ組織はない。過激思想に染まることがいかに危険かということを(各地の事件で)思い起こされたが、米国の捜査当局はかつてなく警戒を強め、効果を上げている。

 (国際テロ組織アルカイダ指導者)ビンラディンを含むテロリストを捕まえ、過激派組織「イスラム国」(IS)に対抗する有志連合は同組織の支配地域の半分を取り上げた。ISは破壊され、米国を脅かすものは無事では済まないだろう。人生において米国の最高司令官であったことは栄誉だった。

 しかし軍事力だけでは駄目だ。恐怖に屈して米国の基本的な価値観を弱めてはいけない。だからこそこの8年間、拷問の廃止やイスラム教徒への差別解消などに取り組んできた。我々が米国の精神を裏切らなければISに負けることはない。我々自身が近くの隣国をいじめる国にならない限り、中国やロシアが世界で持つ影響力は米国に遠く及ばないだろう。

 《締めくくり》

 あなたたちに仕えたことは人生の栄誉だ。一人の市民としてあなたたちとともにいる。大統領として最後のお願いは、あなたたちに信じてほしいということだ。変化をもたらす私の力ではなく、あなたたちの力を信じてほしい。そうだ、私たちはできる。そうだ、私たちはなし遂げた。そうだ、私たちはできる。

(ニューヨーク=鳳山太成)

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