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金融市場、駆け巡った「トランプ・ショック」

2016/11/9 10:39 (2016/11/9 17:51更新)
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 世界をリードしてきた超大国のリーダーが決まった。米大統領選の大接戦を制したのは、民主党候補のヒラリー・クリントン氏ではなく、共和党候補のドナルド・トランプ氏。「もし、トランプ大統領が誕生したら……」という懸念が現実になり、世界の金融市場を「トランプ・ショック」が駆け巡っている。その衝撃はしばらく、やみそうにない。

■「超円高時代」の再来か

 9日の東京外国為替市場。円相場は一時、1ドル=101円台前半と約1カ月ぶりの高値を付けた。この日、市場関係者は大統領選の行方に一喜一憂していたが、その多くにとって、トランプ氏の勝利は想定外の結末だった。

 「トランプ大統領の誕生で、円相場の見通しを円高方向に切り上げざるを得ない。来年初めにかけては一時的に90円を超える円高となってもおかしくない」

 三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏は、こんな見方を示している。トランプ氏の勝利確定後は円高の動きがいったん止まったが、「超円高時代」が再来するリスクは、植野氏だけが予想しているわけではない。トランプ氏は「米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長はクビだ!」といった過激な発言を繰り返し、米国の利上げ路線と一線を画していたからだ。

 金融市場では、今まで「米国が緩やかな利上げを実施し、ドル高・円安が進む」というストーリーが描かれてきたが、トランプ大統領の誕生で軌道修正を迫られかねない。白紙に戻れば、投資マネーなどの動きばかりか、日本のトヨタ自動車などグローバル企業の経営にも大きな影響を与える。

 あるメガバンクの為替担当者は「企業の財務担当者の間では、『先行きが見通しにくくなり、来年度の予算もたてられない』という声も出ている」と明かす。

■英国の「EU離脱」以来の衝撃

 9日の東京市場は、今回の米大統領選の行方を世界で最も早く映し出すマーケットだったといえる。そこで目立ったのは、トランプ氏の躍進への動揺ばかり。日経平均は一時、1万6111円と前日終値から1000円超下落。日経平均の下げ幅が1000円を超すのは、英国が欧州連合(EU)離脱を決めた6月24日(取引時間中に一時1374円安)以来だ。

 日経平均の採用銘柄すべてが下落。結局、終値は前日比919円(5.4%)安の1万6251円と、ほぼ3カ月ぶりの安値水準だった。

 円相場も朝方からの上昇幅は4円を超えた。日経平均と同じく、英国のEU離脱決定時(7円超)に次ぐ大きさとなった。英国のEU離脱決定で「サプライズ」に慣れていたはずの市場にとっても、トランプ氏の勝利は意外感を持って受け止められたのだろう。

 政治経験が豊富な民主党候補のクリントン氏。今までの外交・経済政策を真っ向から否定する共和党候補のトランプ氏。クリントン氏が勝利すれば、オバマ政権の路線から大きく外れることはない、と見られていたが、トランプ氏が大統領となれば、話は別だ。

■「世界の警官」「グローバリズムの盟主」の行方

 トランプ氏は「米国を再び偉大な国に」と訴える一方、その発言の端々に米国を孤立主義に陥らせかねない姿勢がちらつくからである。それは、米国が「世界の警官」ばかりか、「グーロバリズムのリーダー」の座まで降りることを意味するのかもしれない。

 移民政策を一転し、メキシコとの国境に壁を建設する。テロ関連国からの移民受け入れを取りやめる。それらのトランプ氏のスタンスは、米国という国の性格を変えるだろう。

 米国は今まで「開かれた国」を標榜し、世界中から優秀な人材を集めてきた。世界中の国がうらやむIT(情報技術)産業などの集積地、シリコンバレーは「世界の頭脳」を集めることで競争力を保っている。トランプ氏の勝利は、こうした米国の競争力の土台を揺るがしかねない。

 日本も人ごとではいられない。トランプ氏は駐留米軍の費用を全額負担することを求めており、戦後の「日米同盟の基軸」が大きく揺らぐ恐れがある。そして、トランプ氏は安倍政権が成長戦略の切り札とする環太平洋経済連携協定(TPP)にも「反対」の立場をとっている。内向き思考をあらわにしており、トランプ時代のアメリカは、世界がイメージしてきた米国とは姿が異なっていく。

■「恐怖指数」は4割上昇

 米国の変化の予兆に金融市場は身構えている。東京市場の動揺はアジア各国の株式市場にも広がった。中国・香港のハンセン指数は一時、節目の2万2000を割り込んで約3カ月ぶりの安値を付けた。シンガポールや台湾、韓国、インドでも代表的な株価指数が軒並み前日比2~3%安に沈んでいる。

 米国では、ダウ工業株30種平均の先物が急落。一時、前日の清算値(終値)から900ドル近く安い1万7400ドル台に下落した。

 「恐怖指数」とも呼ばれ、投資家の不安心理が高まるほど上昇するVIX指数。その先物は大統領選の速報に反応し、前日に比べて4割強高い水準に跳ね上がった。

 世界は今年、英国のEU離脱決定で今までの常識を崩された。長い目で見たとき、米国がトランプ大統領を選択したという事実は、それ以上の衝撃かもしれない。

 この結末の先行きは読めない。ただ1つ言えることは、トランプ氏の一言一句、一挙手一投足が影響するのは、米国だけではないことだ。トランプ・ショックを受け止め、間合いを探るのは、日本を含めた世界でもある。

(富田美緒、浜美佐、武類雅典)

〈ドキュメント〉

【午後3時すぎ】英国のEU離脱以来の動き

 9日の東京市場は大きく動揺し、日経平均は一時1万6111円と前日終値から1000円超下げる場面があった。日経平均の下げ幅が1000円を超えるのは、英国が欧州連合(EU)離脱を決めた6月24日(取引時間中に一時1374円安)以来。終値は前日比919円(5.4%)安の1万6251円だった。

 円相場は午後3時すぎ、1ドル=102円前半で推移している。午後2時すぎには一時、1ドル=101円台前半と約1カ月ぶりの高値を付けた。105円台前半で推移していた朝方からの上昇幅は4円を超え、1日の値動きとしては英国でEU離脱が決まった6月24日の7円超に次ぐ大きさとなった。

【午後2時すぎ】円は100円台目前に

 東京市場では、投資家のリスク回避の動きが広がり、日経平均が一時1000円超安い1万6100円台まで下げた。

 トランプ氏は「日本が牛肉に38%の関税をかけたいなら、われわれは日本の自動車に38%の関税をかける」と発言していたこともあり、日本の輸出企業の株には売りが膨らんだ。

 トヨタ自動車は一時7%安、富士重工業は11%安と自動車株が軒並み下落。ソニーも8%安と主力株が軒並み売られ、東京証券取引所第1部では98%の銘柄が下落するほぼ全面安の展開となった。

 米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)は午後2時すぎの時点で、トランプ氏の当選確率が95%以上になったと伝えている。

 円相場は午後2時すぎ、一時1ドル=101円台前半の円高・ドル安水準で推移し、100円台が目前に迫った。トランプ氏が激戦州を次々に制覇し、同氏が大統領選で勝利する可能性が高まった。外為市場ではトランプ大統領の誕生を織り込んで、ドル売り・円買いの動きが一段と加速した。朝方からの円の上げ幅は4円を超えた。

 トランプ大統領の誕生は、利上げを控えた米連邦準備理事会(FRB)の金融政策にも影響を与えるとの見方が市場で強まってきた。市場は前日までFRBが12月に利上げする確率を8割程度とみていたが、大統領選の開票が進むに連れて、5割まで急低下した。

 みずほ銀行の田中誠一氏は「トランプ氏が大統領に就任すれば、米利上げ時期は再び遠のく可能性がある」と話す。米利上げ観測の後退は、一段の円高・ドル安要因となる可能性もある。

【午後12時半すぎ】円は101円台前半、1カ月ぶりの高値に

 日経平均株価は午後の取引開始直後に前日比の下げ幅を800円超まで広げる場面があった。トランプの優勢が伝わるごとに下げ足を強め、一時1万6300円台前半と取引時間中としては9月下旬以来の安値に沈んでいる。「長期投資家が売り急ぐ動きは出ていないが、トランプ氏が予想外に善戦したことで、株価指数先物などにリスク回避の売りが膨らんでいる」(ソシエテジェネラル証券の杉原龍馬氏)という。東京証券取引所第1部に上場する銘柄の9割超が下落するほぼ全面安の展開だ。

 米国の金融市場でも投資家のリスク回避の売りが広がり、安全資産の米国債が買われる一方、ダウ工業株30種平均の先物が8日の現物終値に比べて600ドル超下げる場面があった。

 円相場は12時30分時点で、1ドル=101円台前半と1カ月ぶりの高値となり、一段の円高・ドル安が進行している。午前11時すぎからテキサス州などでトランプ氏の勝利が次々に確定。外為市場ではトランプ・リスクを懸念した円買いの動きが広がった。その後も激戦州であるフロリダやノースカロライナでのトランプ氏の優位が伝えられると、円は上げ幅を広げた。

 メキシコの通貨ペソの値動きはさらに激しい。トランプ氏が「メキシコに壁を作る」など過激な発言を繰り返してきたことから、「トランプ大統領」が誕生すれば、メキシコ経済にとって大きな打撃になるとの警戒感が広がっている。

 午前10時時点で1ドル=18ペソ前後だったペソの対ドル相場は、12時10分過ぎに20ペソ台前半に急落。トランプ氏の優位が伝えられる度に下落が加速し、この2時間での下げ幅は12%に達した。

【午前11時半すぎ】円は「1ドル=102円」に急伸

 大票田のテキサス州でトランプ氏が勝利したと伝わると、日経平均株価は下げ足を強めた。前日比の下げ幅は一時500円を超え、1万6600円台半ばと約1カ月ぶりの安値水準に沈んだ。日経平均の午前終値は前日比382円(2%)安の1万6788円。トランプ氏の優勢が伝わるごとに株式市場でもリスク回避の売りが広がり、下げ幅を広げている。

 円相場は午前11時半すぎ、一時1ドル=102円ちょうど近辺と、一段の円高が進行した。11時すぎにテキサス州でトランプの勝利が伝えられると、外為市場では「トランプ大統領誕生」のリスクを警戒する動きが一段と加速。105円台半ば近辺の円安水準を付けていた10時すぎから、わずか1時間半で3円以上もの大幅な円高が進行した。

 6月に英国で実施された欧州連合(EU)離脱を問う国民投票でも円相場は大幅に円高が進んだ。野村証券の高松弘一氏は「6月の経験から、市場参加者は警戒感を強めており、市場に流動性がほとんどない。それが開票速報が出るたびに大きな値幅が出てしまう理由になっている」と話した。

【午前11時すぎ】円相場は103円前半と急速な円高

 激戦州のフロリダ州の開票速報で、トランプ氏優位と伝わると、日経平均株価は250円超下げ、節目の1万7000円を割り込む場面があった。朝方は高く始まったが、トランプ氏優位と伝わると80円超下落。その後、クリントン氏の優勢のニュースを受けていったんは切り返したが、再び下げに転じた。

 円相場は午前11時すぎ、一時1ドル=103円前半と急速な円高が進行している。激戦州の1つであるフロリダ州でトランプ氏が急速に巻き返し形勢を逆転。外為市場では再び「トランプ大統領誕生」のリスクを警戒する円買いが盛り上がった。

【午前9時半すぎ】フロリダ州で「トランプ優位」で円高に

 激戦州のフロリダ州でトランプ氏が優位と伝わると、外国為替市場では「トランプ大統領誕生」を懸念したリスク回避の円買い・株売りが広がり、円相場は一時1ドル=104円台半ばまで円高・ドル安が進んだ。ところが、一転してクリントン氏が優勢との速報ニュースが伝わると、今度は急速に円安が進行。午前10時点で105円台半ばと20分あまりで1円近く下落した。

 日経平均も上げ下げがめまぐるしく入れ替わっている。朝方には前日終値に比べて100円超高まで上昇したが、トランプ氏優位と伝わると一時、82円安の1万7088円まで下落した。その後は為替の円安と歩調を合わせて切り返し、250円超高い1万7400円台前半まで上昇している。

【9日の東京市場は】「超大国」の行方に思惑交錯

 投票結果が判明するのは日本時間で9日午後と予想されている。クリントン氏が大統領になれば、大幅な路線変更はないとみられる一方、トランプ氏が当選すれば、戦後の世界をリードしてきた「超大国」の外交・経済政策が大きく変更される可能性がある。金融市場は「もし、トランプ氏が大統領になったら」というリスクに身構えている。

 9日の東京市場では、トランプ氏の当選を懸念するリスク回避の円買い・株売りと、クリントン氏当選を織り込もうとする円売り・株買いが交錯し続けるとみられている。


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