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成功の鍵「ピボット」 スラックとミクシィの共通点
校條 浩(米ネットサービス・ベンチャーズ マネージングパートナー)

2016/4/5付
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 日本の著名なゲーム企業、任天堂、ディー・エヌ・エー(DeNA)、ミクシィの共通点は何か。それは「ピボット」して大成功した会社だということだ。ピボット(Pivot)とは、事業を根本的に転換することである。

めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。新事業コンサルティングを経て、日米のベンチャー企業に投資するVCを組成。

めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。新事業コンサルティングを経て、日米のベンチャー企業に投資するVCを組成。

 任天堂はトランプのメーカーだったが、家庭用ゲーム市場を開拓して大化けした。DeNAはネットオークションで苦労が続いた。途中で携帯ゲームを開発し爆発的な成長をした。ミクシィはもともとはネット求人広告の会社で、ブレイクしたのはソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を始めてからだ。その事業も米フェイスブックに押され存続の危機となったが、スマホゲームで見事に復活した。

 自社が計画した事業が順調に成長すればピボットをする必要はない。最初に手がけた事業が全力を尽くしてもダメだった時、次の事業に果敢に挑戦する――。それがピボットだ。シリコンバレーのあるベンチャーキャピタルによると、成功した投資先企業の95%がピボットを経験しているという。ピボットと言えば聞こえがいいが、要は事業の失敗だ。ベンチャー企業の場合は、資金が枯渇して倒産寸前の場合も多い。社員を解雇することもしなければならない。

 今、「スラック(Slack)」というグループ・コラボレーション・ツール(法人向けチャットサービス)を提供しているベンチャー企業が急成長している。製品名と同じ名前のこの企業は、わずか2年でユーザー数100万人を突破した。法人分野でのこの急成長は破格だ。企業価値はすでに1000億円を超えた。

 創業者のスチュワート・バターフィールド氏はマルチ・プレーヤー・ゲームの会社を設立したが、そのゲームは全く売れなかった。白旗を揚げ、従業員を解雇したのは断腸の思いだったという。ただ、資金を使い切る前に決断したので、新事業を作る余力はまだあった。

 ゲームの開発作業を円滑に進めるためのコラボレーションツールを探したが、満足いくものがなかった。そこで自社開発したのがスラックの原型だ。それを商品化することを決め、試用版をユーザーに使ってもらいながら徹底的に改良をくり返した。ゲーム開発という最先端の業務プロセスから生まれたので、グループチャットやアプリケーション連携など、時代を先取りするツールとなった。

 彼が創業したのはこの会社が初めてではない。しかも最初の会社もピボットして成功させたのだ。彼が最初に起業したのはオンラインゲームの会社だった。鳴かず飛ばずだったので、ゲームのために開発した写真の共有ツールを切り出してサービス事業に衣替えした。それが写真保管・整理サービスの代名詞となっているフリッカー(Flicker)である。後に米ヤフーに買収されている。

 ピボットの大前提は「失敗を認めること」である。失敗を認めることによって、再び事業創造にチャレンジできる。日本では、失敗を潔しとしない風潮がある。予想通りの事業進展が見られないと、運営コストをカットして失敗を先送りする。これではゾンビ事業が存続するだけだ。行政のベンチャー振興策がなかなか成果を生まないのもピボットが許されないからだ。

 事業転換を失敗とは呼ばず、あえてピボット(転換)と呼ぶところにシリコンバレーの知恵がある。転換なら再チャレンジが可能になる。

[日経産業新聞2016年4月5日付]

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