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「災後」5年が問う(中)原発事故に向き合う姿を世界に

2016/3/11 3:30
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 東日本大震災がもたらした東京電力・福島第1原子力発電所の事故の影響で、なお10万人近い住民が避難を余儀なくされている。

 この事故に国民全員が向き合い続け、教訓をくみ取らなければならない。国際社会に対しては、放射能汚染の実態や廃炉の状況を包み隠さず伝える責務を負う。原発をどう利用していくか、事故を踏まえた展望を示すべきだ。

廃炉に確かな道筋を

 まず確認しておくべきは、事故が収束したわけではないことだ。福島第1原発では、水素爆発で壊れた3号機の原子炉建屋などが残骸をさらしている。40年以上かかる廃炉は、やっと入り口に立ったにすぎない。

 敷地には放射能を含んだ汚染水のタンクが1千基以上も並ぶ。海への流出は防護壁ができて落ち着いてきたが、原子炉の建物に地下水が流れ込んでいるため汚染水の量は増え続けている。

 東電は建物を囲むようにして地下凍土壁をつくり、今月中にも稼働させる。だが実際の効果は不透明だ。凍土壁が思惑通りに働かない事態も想定し、国や東電は次善の策を考えるときだ。

 現状では汚染水から多くの放射性物質を除いてもトリチウムが残る。海への放出には漁業者らの不安が強い。全力をあげて理解を得る必要がある。トリチウムを減らす技術開発にも注力すべきだ。

 溶け落ちた核燃料の状況はいまも分からず、その取り出しは廃炉への最難関になる。国や東電は2021年の開始をめざしてロボットや遠隔操作技術の開発を進めている。国は850億円を投じて新たな研究拠点もつくった。

 そこでの研究を研究だけに終わらせてはならない。現場で何が必要か見極め、成果を活用できたかチェックする仕組みが要る。廃炉には毎年数千人以上の作業員がかかわる。長期的な人材確保もいまから考えておくべきだ。

 事故で原発の「安全神話」は崩れた。事故のリスクを直視し、リスクをいかに最小限に抑えるか。地に足のついた「安全と安心」を築き直す必要がある。現状は道半ばと言わざるをえない。

 かつての規制当局に比べ行政や電力会社からの独立性が高い原子力規制委員会が発足し、既存原発の稼働を認めるかどうかの安全審査を進めている。これまでに九州電力川内原発など5基が合格し、東電柏崎刈羽など9基も大詰めを迎えている。

 規制委が真価を問われるのはこれからだ。審査中の原発には直下に活断層があると疑われたり、巨大地震の震源域にあったりするものがある。稼働から40年を超え老朽化が懸念される原発も多い。

 関西電力高浜3、4号機をめぐって大津地裁が規制委の審査に疑義をはさみ、運転の差し止めを命じた。規制委が考える安全と国民が考える安全の間に隔たりのあることが、浮き彫りになった。

 稼働には地元の同意も欠かせない。事故時に住民が避難すべき地域が複数の道府県にまたがる原発もある。規制委や電力会社任せにせず、政府が前に出て調整する場も必要だろう。

原発の長期展望示せ

 日本がエネルギー政策のなかで原発を長期的にどう位置づけていくか、世界が注視している。福島の事故を受けドイツやイタリアは脱原発を決めた。一方で中国やインドなどは原発を増やしつつ、福島事故の教訓から学ぼうとする姿勢もみせている。

 地球温暖化防止に向けた「パリ協定」が昨年末に採択され、温暖化ガスの排出が少ない原発の役割は改めて注目されている。他方、原油安が続けば化石燃料への依存が続く可能性もあり、世界のエネルギー情勢は混沌としている。

 日本政府は原発への依存度を下げ、震災前に3割だった発電比率を30年に2割強にする目標を掲げた。だが古い原発の更新(リプレース)をどうするかなど、長期的にどう利用するかは曖昧だ。

 ほかにも答えが出たとはいいがたい問題は少なくない。高速増殖炉もんじゅや核燃料サイクルの計画を維持するのか。使用済み核燃料から出る核のごみの処分地をどこにするのか。

 福島の事故を絶えず問い直し、原発の安全性を高めると同時に、原発のありようも含めたエネルギー利用の長期展望を日本は示していかなくてはならない。

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