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不祥事なぜ相次ぐ 日本に足りない「受託者責任」
校條 浩(米ネットサービス・ベンチャーズ マネージングパートナー)

2016/2/23付
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 投資顧問会社による年金消失や老舗企業による会社ぐるみの粉飾といった経済活動の問題、起こり得ないはずだった原子力発電所事故、規制を強化したはずの高速ツアーバスによる事故など社会問題が噴出している。日米の投資や経営の現場に触れてきた経験から根本原因について気がついたことがある。

めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。新事業コンサルティングを経て、日米のベンチャー企業に投資するVCを組成。

めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。新事業コンサルティングを経て、日米のベンチャー企業に投資するVCを組成。

 まず参考になるのは「失敗学」提唱者の畑村洋太郎氏の意見だ。仕事は基本的・根本的なことと具体的・細かいことの組み合わせでできている。事故や不祥事があると法令順守が強調されて、本来の基本的・根本的なことから注意が離れてしまうという。

 法令規制やマニュアルだけだと、それぞれの担当部署での対応となる。守備範囲は明確になるが、守備範囲の間にある問題や、より上位の問題が起きた時に対応できない。「法令に基づく所管事項ではないから自分がやるべき仕事ではない」と、何も対応しないことが多くなる、と畑村氏は述べている。

 法令と経済的要請、社会的要請との間で乖離(かいり)やズレが生じ、法令規則の方ばかり見て、その背後の社会的要請を考えないで対応したとする。そうなると法令は守っているが、経済的要請や社会的要請には反しているということが生じる。監督官庁は法令順守を徹底するために審査と罰則の強化に終始するから、その乖離・ズレはますます広がる。

 そこでFiduciary Duty(フィデュシャリーデューティー、受託者責任)の適用を提案したい。

 フィデュシャリーデューティーは狭義には「家計や年金、機関投資家が運用する資産に関し、それぞれの資産保有者のニーズに即して適切に運用する役割・責任」(金融庁)となる。

 投資ファンドを例に考えてみる。投資環境が変化したり、運営者が当初の計画と違う運営を余儀なくされたりした場合、ファンドの運営者は出資者との間で交わした契約に従うだけであってはならない。投資活動をまず休止し、大きく変化した状況を出資者に伝え、最善の策を提案する義務がある。米国では、速やかにこの行動をとることが求められている。

 日本では、誠意を持って努力することが社会規範として求められている。問題の種を早く表に出せない雰囲気があり、問題を内部で温存してしまいがちだ。ここで、フィデュシャリーデューティーの考えを使えば、絶対的な基準で判断できる。フィデュシャリーデューティーに詳しい樋口範雄氏は「依頼者の利益を常に優先する忠実義務や、自分の仕事のプロセスを相手にしっかりと説明する義務を問われる」と語る。フィデュシャリーデューティーは契約よりも、より根本的な義務なのだ。

 企業であれば株主、金融機関であれば投資家、官庁であれば納税者の信認を得て活動しているわけであるから、それぞれの受託責任は明確だ。株主・投資家・納税者の利益を最大化することを基準に活動し、問題が生じる可能性を察知した場合は、原点に戻って判断するのだ。

 樋口氏は「日本人がグローバル化の掛け声の下、信認関係を抜きにした米国流の契約を表面的に受け入れた結果のゆがみが表れてきた」と指摘している。経済・社会での基本的・根本的な要請から乖離して契約や法令の順守に注意が偏ってしまうことが、経済・社会の営みにおける制度疲労を起こしているのではないか。

 フィデュシャリーデューティーは羅針盤として重要な役割を果たしてくれるはずだ。

[日経産業新聞2016年2月23日付]

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