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春秋

2015/10/25付
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 「政府は漫画文化をつぶすのか」。ここ数年、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉を見守る出版関係者などの間で、そんな心配が高まっていた。議題の中に、著作権侵害は作家自身が訴え出なくても当局が独自に取り締まれるようにする、とのくだりがあったからだ。

▼取り締まりが増えるなら作家や出版社に有利なはず。しかしそう単純ではないのが創作というものの面白いところだ。既存作品のパロディー同人誌は多い。大きな即売会には国内外から50万人が集まる。漫画やアニメの登場人物に扮(ふん)するコスプレ会も盛んだ。最近はネットの動画投稿サイトも作品発表の舞台となっている。

▼同人誌市場で鍛えられプロになった描き手もすでに多い。悪質な海賊版業者だけではなく、こうした漫画文化の裾野も危うくなりそうだったわけだ。政府が発表した合意内容によれば、もとの作家の収益に大きく響かなければ摘発対象にはならない。パロディー誌やコスプレは当面、お上から狙い撃ちされずに済みそうだ。

▼以前、同人誌即売会が存続する理由を取材したことがある。プロの人々は「ファンのすることだから」「気持ちが分かるので」と自作のパロディーを告発しない理由を語った。混沌の中でこそ次の才能が芽を吹くとの声もあった。公認でも否認でもない、黙認や放任という知恵。そうした曖昧さの中でこそ育つものがある。

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