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春秋

2015/9/28付
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 「血と雨にワイシャツ濡れている無援ひとりへの愛うつくしくする」。1960年の安保闘争をうたった、岸上大作の代表作である。流血、革命、孤立無援、そして恋……。なんと思いつめた青年の姿なのか。注目されていた歌人自身もまた、わずか21歳で命を絶った。

▼大衆運動にまつわるこういう雰囲気は、のちの学園紛争の季節にも息づいていた。「催涙ガス避けんと秘かに持ち来たるレモンが胸で不意に匂えり」。この有名な歌を収めた道浦母都子さんの歌集は、その名も「無援の抒情」。機動隊が催涙ガスを放つ激しいデモのなか、レモンは「ガスよけ」とされたのだ。悲壮である。

▼欧米でアジアで、市民や学生によるデモは珍しくない。日本でそれが低調だったのは、長きにわたるそんな固定イメージに一因があったかもしれない。ならば、最近わき起こった安保法制反対の動きは半世紀ぶりに後遺症が癒えた証しでもあろうか。主張の是非はさておき、目を凝らすべき新たなかたちの街頭行動である。

▼デモや集会は、議会制民主主義の本道とは離れるが自由な社会の象徴だ。とはいえ空気や感情が場を支配するから危うさも漂う。権力者が民衆をたきつける手でもある。そんなあれこれを心に留めつつ、若者たちの今風のノリに驚く「無援」世代は少なくないだろう。一時のブームのようでもあり、時代の風を感じもする。

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