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春秋

2015/4/11付
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 腕時計は市民社会における手錠である――。丸谷才一さんの小説「たった一人の反乱」に、美術評論家がそう一席ぶつ印象的な場面がある。ある写真家が専門誌の賞を受け、その授賞式を描いたくだりだ。副賞が腕時計だったことから、評論家の長いスピーチが始まる。

▼昔、時計は権力者の高価な玩具にすぎなかった。近代社会になり、労働時間の管理や商談などに時計は必須になる。時計塔から置き時計、腕時計へと小型化し、便利であると同時に人を縛る道具になっていった。だから真の自由人に時計は要らない。写真家に対し腕時計を贈るのはふさわしいか。そんな趣旨の演説だった。

▼多くの人にとって、腕時計は一人前の大人の証しかもしれない。ところが最近、若者に時計をしない人が増えているという。時間なら携帯電話で確認できるからだ。空いた手首を狙う作戦か、近く米アップルが新商品「アップルウオッチ」を発売する。きのう予約受付が始まり、試着できる店はかなりの混雑ぶりをみせた。

▼単なる時計ではなく高機能の情報端末だ。脈拍測定など健康管理にも役立つという。所有者同士なら互いの心拍を表示させられるため「デート中、相手がドキドキしているかどうか分かる」と専門家は語る。持ち主の行動や健康の情報も集めやすい。便利な道具か、進化した「手錠」か。使い手側も知恵を磨く必要がある。

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