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春秋

2017/8/10 2:30
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 「作品は素晴らしすぎて発売できません」。1988年6月22日付の全国紙に奇妙な広告が載った。東芝傘下のレコード会社「東芝EMI」は忌野清志郎さん率いるロックバンド「RCサクセション」が8月6日の広島原爆忌に予定していた新譜の発売中止を告知した。

▼ボブ・ディランの「風に吹かれて」や、ジョン・レノンの「イマジン」などを収めた洋楽のカバー曲集だ。清志郎さんは本歌取りのように原曲と異なる作品世界を創造。「ラブ・ミー・テンダー」と「サマータイム・ブルース」は原子力発電の安全性を問う歌にした。慌てた大株主の東芝が圧力をかけて“発禁”にしたのだ。

▼「素晴らしすぎて」の広告文は制作現場の精いっぱいの抵抗だったと想像する。結局、レコードは他社が発売した。エルビスの名曲に「放射能はいらねえ/牛乳を飲みてえ/何やってんだー」の詩をあてた清志郎さんの予見と批評眼の確かさにうなる。でも、「3.11」後の世界を見ずに2009年5月に逝ってしまった。

▼東芝はきょう、有価証券報告書の提出期限を迎えた。監査法人は「限定付き適正」とする方針と、報道された。上場維持に一歩前進だという。が、債務超過解消に向けた子会社の売却交渉など乗り越えるべきハードルは残る。再起を目指す名門企業と、お蔵入りしかけた清志郎さんの歌。どちらが長く市場に残るのだろう。

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