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春秋

2017/8/7 2:30
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 川路聖謨(としあきら)は末期の江戸幕府を支えた能吏として知られる。山田風太郎の言葉を借りれば、有能であったのみならず誠実で情愛深くユーモアに富んでいた。江戸無血開城が決まった翌日、不自由なからだで自ら命をたった。風太郎は「最後の徳川武士の花」と評している。

▼そんな人物が落語に出てきたので驚いたことがある。三代目の桂米朝師匠による「鹿政談」だ。奈良で「神さまのおつかい」とされるシカを、あやまって殺(あや)めた豆腐屋。死罪は免れないと覚悟してお白洲(しらす)に臨んだところ、情と機転をそなえた奉行の「大岡さばき」ならぬ「川路さばき」でハッピーエンド、という筋だった。

▼この噺(はなし)に出てくる奈良奉行はもともと、川路より前の時代の人物だったらしい。あえて名高い幕臣を起用したのには、米朝師匠なりの思い入れがはたらいたのかもしれない。評伝などによれば、政争のあおりで左遷された川路は足かけ6年にわたって奈良奉行をつとめた。地元の人たちからずいぶんと慕われたのだそうだ。

▼いまでは死罪ということはないが、奈良でシカが神聖なのに変わりはない。特別天然記念物として大切にされるようになった。おかげで近年は数が増え農作物などを荒らす害が深刻に。ついに奈良県が捕獲に乗り出したところ自然保護団体から反対の声が上がった。これにて一件落着、とはいかないのが人間社会の現実か。

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