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ITで医療・介護を抜本改革せよ

2017/8/7 2:30
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 高齢化で医療・介護費は膨らみ、日本は先進国で最悪の財政状態にある。そんな中で一人ひとりが自立した生活を送ることができる「健康寿命」を延ばし、医療・介護費を抑える対策が急務だ。

 カギを握るのがIT(情報技術)だ。政府はこれを最大限使い、医療・介護の抜本改革につなげてほしい。

 まず個人が病院や診療所で受診したときの診療報酬明細書(レセプト)の情報の活用だ。今は匿名に加工処理されて厚生労働省のデータベースにたまっている。

中医協のあり方見直せ

 その数は100億件を上回る。介護のレセプト情報や、健康診断の情報もそれぞれ数億件ある。問題は医療・介護・健康の詳細なデータが制度ごとにバラバラに管理され、ビッグデータとして一元的に利用できていないことだ。

 医療や介護のビッグデータによる解析がすすめば、重度の病気にかからないように予防する方策を特定しやすくなる。厚労省はデータベース構築を急ぐべきだ。

 企業や個人レベルの健康管理にも役立つ。ビッグデータを参考に、健康保険組合は社員の健康状態を定期的に把握し、必要な指導をしやすくなるからだ。

 介護は、医療よりITの活用が遅れている。要介護者の筋力や骨密度、心機能などの詳細なデータを集めて分析すれば、科学的に自立支援に効果のあるサービスを定め普及させることができる。

 2018年度には医療・介護費の公定価格である診療報酬と介護報酬の増減率が同時に改定される。政府は全体として費用を抑えつつ、遠隔診療やロボット介護などは報酬面で配慮してほしい。

 レセプトを審査している社会保険診療報酬支払基金の改善の余地も大きい。審査に人工知能(AI)を導入したり、審査の9割をコンピューター処理したりする合理化策を厚労省がまとめた。

 ひとまず妥当な内容だ。しかし、47都道府県ごとに置く支部で別々に審査している体制は早期に改め一元化すべきだ。職員の削減はもっと上積みできるだろう。

 同時に重要なのは、ビッグデータを診療報酬・介護報酬の決め方の改革につなげることだ。

 診療報酬は中央社会保険医療協議会(中医協)で決めているが、その過程は透明とはいえない。「議論の技や交渉の巧拙で決められていた」とある中医協会長経験者は著書で明らかにしたが、責任は中医協の公益委員にもある。

 日本の財政事情を踏まえると、医療・介護費を大盤振る舞いする余裕はない。ビッグデータでいまよりも客観的・科学的な根拠にもとづき、真に有効な治療法や医薬品を評価する。限られた予算の中から重点配分する。そんな改革が不可欠だ。

 25年には団塊の世代が全員75歳以上の後期高齢者となる。40年代にかけて高齢者の数はピークを迎える。こうした中長期の視点から、政府は中医協の改革工程表をつくるべきではないか。

 レセプト情報と並び健康維持活動や医薬品の効果を客観的に評価する基礎となるのが、病院や大学が個別にもつ画像診断や遺伝子解析などの大量のデータだ。宝の持ち腐れも多く、治療・予防研究や創薬にもっと生かす工夫がいる。

AIによる創薬支援を

 来春に施行される「医療ビッグデータ法」により、こうしたデータを製薬会社などに提供する際のルールが明確になるのは好機だ。病院などはデータを自ら匿名加工しなくても、国が認定した事業者に委託できるようになる。

 信頼できるデータを豊富に使えて初めて、AIによる創薬や診断支援も可能になる。政府は優れたデータ処理力や漏洩防止技術をもつ企業の参入を促す必要がある。患者にデータ利用の意義を伝え、了解を得る努力も欠かせない。

 データの収集、統計処理などの専門家の育成も不可欠だ。これまで「情報処理屋」と軽視する傾向があったが、米欧では高給で引く手あまただ。大学の教育課程に組み込むなど早急に手を打たないと産業の裾野は広がらない。

 ITをうまく使い、個人の利便性を高めるための規制改革も加速してほしい。たとえば、インターネットで遠隔診療を受けても、処方箋は郵送で届けられるのを待たねばならない。悪用を防ぐ技術的解決策とあわせて「電子処方箋」を認めるべきだ。

 国家戦略特区では「遠隔服薬指導」が解禁されたが、実績はゼロだ。遠隔診療と一体で利用しやすくする方策はないか。規制改革推進会議は総点検してほしい。

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