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春秋

2017/7/21 2:30
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 昭和8年(1933年)。ドイツでナチス政権が誕生し、特高警察に逮捕された作家の小林多喜二が拷問を受け死亡したその年に作詞・西条八十、作曲・中山晋平の「東京音頭」が大流行した。「ハア~/踊り踊るなら/チョイト/東京音頭/ヨイヨイ」のあれである。

▼大正デモクラシー期に生活の救済を訴えて米騒動に立ち上がった都市民衆は、戦争とファシズムの忍び寄る不安な世相のもとで幕末維新の「ええじゃないか」の狂乱を思わせる東京音頭の乱舞に身をまかせた。「東京都の百年」(山川出版社)にこんな記述がある。地名だけかえたご当地音頭が作られ、各地で大流行した。

▼プロ野球・東京ヤクルトの応援歌でもある。おととい13連敗を喫し最下位を独走中だ。先日本拠地の神宮球場をのぞいたがファンは案外、寛容だ。「みんな、暗い顔しないの。昔はもっと弱かったんだから」。応援団員の慰めに「負けるとまずくなるから初回から飲んじゃおうかな」と、笑顔で生ビールをあおる人もいた。

▼東京音頭に身をゆだねると魂が浄化されるのか。神宮球場で選手をヤジる声をあまり聞かない。村上春樹さんは「風のない晴れた午後の神宮球場の外野席は少なくとも東半球ではいちばん気持ちが良く、そして心温まる外野席だった」と書いた。きょうから神宮3連戦。勝負はさておき、日々の憂いを忘れて踊りに行こうか。

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