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春秋

2017/7/19 2:30
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 「医」という漢字の旧字体は「醫」である。このややこしい文字は3つのパートから成り立っているそうだ。左上の「医」は隠された場所に弓矢を置いた状態。それに「殳」を加えると、矢をエイッと投げる動作になる。下の部分の「酉」は、傷口を清める酒のことだ。

▼声をかけながら大切な矢を投げ、酒の力も借りて悪霊を払う――。複雑な「醫」の構成は、病魔との闘いの様子を表しているのだと、白川静博士の論考に教えられた。考えてみればこの3つは現代の医療にも通じよう。弓矢は外科手術、酒は薬剤、そして振りしぼる「声」は医師から患者への、さまざまな言葉ではないか。

▼きのう105歳で亡くなった日野原重明さんは、社会へ向けた「声」のひときわ力強い医師だった。聖路加国際病院の現役ドクターとして発しつづけた言葉の数々は超高齢化社会を生きるシニアにも若者にも勇気を与え、夢を抱かせた。「75歳を超えて第3の人生が始まる」とこの人に言われれば、胸に新たな灯がともる。

▼オウム真理教が起こした地下鉄サリン事件のとき、日野原さんは蛮勇をふるった。運ばれてきた被害者の苦悶(くもん)を目の当たりにし、病院の外来をすべて中止して次々と患者を受け入れたのだ。世の中に投げかける声を持つ医師は、その声を聞く力もすぐれていたのである。弓矢や酒がどれだけあっても、できることではない。

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