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シリコンバレーのアイデア 即実現する中国の速さ
大阪大学教授 栄藤 稔

2017/7/13付
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 6月初め、数年ぶりに北京を訪問し景色の変化に驚いた。道路の横を走る自転車の大多数がレンタサイクルなのだ。その後に訪れた上海でも景色は同じ。大学の近くなどでは個人所有の自転車が見あたらない。

1985年松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所、NTTドコモのシリコンバレー拠点長や執行役員を経て大阪大学教授に着任する。みらい翻訳の社長を兼務。
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1985年松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所、NTTドコモのシリコンバレー拠点長や執行役員を経て大阪大学教授に着任する。みらい翻訳の社長を兼務。

 中国では「自転車シェアリング」と呼ばれる自転車のレンタル事業が急拡大している。2017年春にはユーザー数が3000万人を超え、稼働中の自転車は400万台に達しているもようだ。

 ここでも活躍しているのがスマートフォン(スマホ)のアプリだ。アプリで事前登録・入金、本人確認ができるようになっている。原則、貸し出しと返却の手続きもスマホの機能を用いてすませる。料金決済は、アリババ集団の関連会社が手掛ける支付宝(アリペイ)か、騰訊控股(テンセント)の「微信支付(ウィーチャットペイ)」だ。

 米国での生活がスマホを中心とした情報通信技術(ICT)により大きく変化した。具体的には(1)モノを個人で所有せず他人と共有するサービス形態(シェアリングエコノミー)が発展した(2)現金のやりとりがソーシャルネットワークの電子決済に置き換わった――の2つがあげられる。このことは以前にもこのコラムで書いた。それが中国で「モーレツ」な速度で起きている。

 シリコンバレー発のアイデアのよいところをあっと言う間に実装してしまう中国企業のエネルギーが、グローバルに進化するICTに結合している。もはや、中国の強みは製造ではなく「知造」になっている。

 中国の配車サービス大手の滴滴出行(ディディチューシン)が米ウーバーテクノロジーズの中国事業を買収したこともあり、北京と上海では一度もタクシーに乗らなかった。割り勘の精算など、若者同士のお金のやり取りはウィーチャットペイを使うのが当たり前だ。ほかにもネット決済とスマホアプリが連動していて、現金を持つ機会が激減している。イマドキ、北京で現金を財布に入れて歩いている若者は日本人くらいかもしれない。

 IoTの文字どおりの訳は「モノのインターネット」だ。だがその意味はもっと深い。私は、モノが通信で情報システムとつながることによって新たなサービスが創造されたり、既存産業が高度に最適化されたりすることがIoTの「キモ」だと理解している。

 そのときにカギとなるのは、社会制度や文化ではないか。そう思わせたのが中国での自転車シェアリングの過熱ぶりだ。

 1回30分の利用料は1~0.5人民元(約8円)が相場だ。前払いの保証金の運用や利用履歴データの二次活用を主眼にしたビジネスモデルであるにしても安すぎる。いずれ、業者の淘汰とそれに伴う寡占化で値上げが行われるだろう。

 だが、それを差し引いても、自転車が街角にあふれていて、気軽にシェアできるのはすばらしい。環境に配慮して持続的に市民の生活の質を向上させるというスマートシティサービスの理想例ではないか。

 このサービス、東京では無理だろう。レンタサイクルは無灯火、そして路上に置き放題だ。行政が駐輪場確保や路上にあふれたレンタサイクルの整理を業者に指導している。放置していると判断した自転車をトラックで保管場に移送している。

 日本では、放置自転車が社会問題になり、その対策を行ってきた。その文脈では放置自転車は悪だ。一方、中国では放置レンタサイクルを許容した自転車シェアリングという新サービスが市民文化として根づいている。

 この記事を書いているころ、中国の業界大手のモバイクが日本法人を設立し、福岡に第一号支店を設置すると発表した。IoTは技術よりも社会制度設計がカギだとすると、モバイクの日本事業はどうなるか。その挑戦を注視したい。

[日経産業新聞2017年7月13日付]


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