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春秋

2017/6/27 2:30
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 滋賀県が繊維産地として発展したのは、琵琶湖の恵みによるところが大きいという。湖面からの湿った空気で近江盆地は適度にうるおい、織物づくりに向いていたのだ。養蚕や製糸の伝統も長く、かの群馬県の富岡製糸場にも彦根からたくさんの子女が派遣されていた。

▼そういう風土のなかで、さまざまな紡績会社が競い合った。のちにエアバッグなど自動車の安全部品で世界的メーカーとなるタカタも、もとは彦根の織物工場である。創業者は相当なアイデアマンだったに違いない。昭和8年の創業時から、織物の技術を生かして救命ロープの製造にも乗り出していたと同社の沿革にある。

▼戦後はモータリゼーションの到来以前にシートベルトの研究に着手したというから、安全追求への熱意は一貫していたわけだ。やがてグローバル企業に脱皮するのだが、その急成長の陰に慢心が潜んでいたのかもしれない。欠陥エアバッグ問題にきちんと手を打たぬまま経営が悪化、ついに民事再生法適用の申請となった。

▼安全のためのものづくりに精魂を注いできた会社が、自らの安全にかくも無頓着だったとは皮肉な話である。負債総額はリコール費用を含め1兆円超。製造業としては戦後最大の経営破綻だ。近江は商道にもうるさい土地だった。売り手よし、買い手よし、世間よし――。そんな精神から遠い倒産劇に、深くため息をつく。

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