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イノベーションの脅威を機会と受け止める
西城洋志(ヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレーCEO)

2017/6/20付
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 先日、シリコンバレーで活動する日本人有志が作成した「シリコンバレーD-Labプロジェクトレポート」という報告書が経済産業省から公開された。私も一部参画させていただいた。その中で改めて感じたのは「これまでにない現象や変化は、脅威なのか?機会なのか?」だ。

ヤマハ発動機で表面実装技術やロボット事業のソフトウエア開発などに従事。2015年7月にヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレーを設立、ベンチャー投資を含めた新事業開発に取り組む。

ヤマハ発動機で表面実装技術やロボット事業のソフトウエア開発などに従事。2015年7月にヤマハ・モーター・ベンチャーズ・アンド・ラボラトリー・シリコンバレーを設立、ベンチャー投資を含めた新事業開発に取り組む。

 この報告書の大まかな内容は、自動車業界で起きている4つの大きなトレンド(シェアリング=共有、コネクテッド=ネットとの接続、電気自動車、自動運転)によって、既存の完成車・部品メーカーが破壊的な影響を受けるというものである。ここに書かれている内容はすべて事実に基づいた話であり、そうした変化が起きているのは未来ではなく今である。

 だが、報告書を読んで「危機感をあおられた」と感じられた方もいらっしゃると思う。このような変化は世界的に見れば限られた領域で起きている話だ。シェアリングエコノミーも中長期的に見れば事業を継続できるかどうかには疑問がある。我々は10年先も大部分は車を所有し、排ガスを出しながら、渋滞や大気汚染に悩まされながら生きているかもしれない。

 報告書が指摘した4つのトレンドを「脅威」ととらえるにしても「機会」と考えるにしても、何とも行動に移しにくい。それは「今、十分な量のもの」ではないからである。結果として、見送りや経過観察になりがちだ。

 だが、今の時点で行動を伴わない結論を出してしまうと、それらのトレンドが「今、十分な量のもの」になったときには「すでに遅し」となってしまう。我々はその悲劇を日本の電機メーカーの衰退といった形で目の当たりにしている。そしてこの報告書作成の発起人の1人はその悲劇を当事者として経験した方であり、日本の自動車産業が同じ轍(てつ)を踏むことを懸念して行動に移したのだ。

 「今、十分な量のもの」でないトレンドにどう備え、何をすべきかが新事業開発チームに課されたミッションであると思う。

 もし、機会として考えるのならば「そこに市場はあるのか」という問いが浮かんでくる。「どうやって市場を創るか」と問いかける人は少ない。だが、本当に考えるべきなのは後者だ。

 市場を生み出すための要素や背景があるかどうかに注目し、自社の経営資源をどこまで投入すべきなのかを判断する。そのうえで素早く着手し、ダメだと思ったらしっかりやりきってからやめる。新事業開発にはこうした方法が適切だ。正解がない世界なので、自分で正解をつくりだす行動とも言える。

 脅威として考えるのなら、どうすればよいのだろうか。「これは破壊的イノベーションですよ!」と声高に叫んでもあまり響かない。「オオカミ少年」と言われるのがオチだ。現事業にとってはその変化が「今」ではなく「十分な量」でもないからだ。だからこそ、新事業開発チームはどの相手と組み、どのようなシグナルを監視すればいいのかを考える必要がある。

 私がこちらに赴任したときに見ていたのは、脅威への備えだった。だが、面白いことに、しばらくすると機会が見えるようになってきた。脅威は現事業に軸足を置いて変化を受動的にとらえた場合の話である。機会は白紙ベースで変化を能動的に理解したときの表現である。新事業開発チームに求められているのは、変化を機会として受け止める活動だ。今回の報告書がそれを後押しする一助になってほしいと考えている。

[日経産業新聞2017年6月20日付]


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