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ハッカーの脅しをネットフリックスが無視できる理由
フィル・キーズ(米インタートラストテクノロジーズ マネジャー)

2017/5/30付
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 12日に発生した世界規模のサイバー攻撃では「ランサム(身代金)ウエア」と呼ばれるコンピューターウイルスが猛威を振るった。シリコンバレーにある動画配信会社の米ネットフリックスも似たような攻撃の対象になったが、被害はそれほど大きくなかったようだ。

カリフォルニア大学バークレー校在学中に交換留学で来日。日本のIT(情報技術)産業にも詳しく、技術誌やウェブサイトなどでジャーナリストとして活動。日本での勤務経験もある。

カリフォルニア大学バークレー校在学中に交換留学で来日。日本のIT(情報技術)産業にも詳しく、技術誌やウェブサイトなどでジャーナリストとして活動。日本での勤務経験もある。

 今回の攻撃では、ハッカーもしくはハッカーの集団がネットフリックスの新番組のコピーを盗んだ。彼らはお金を払わないと配信時期より前に動画を公開すると脅した。ネットフリックスは要求を無視、ハッカーは番組を流した。

 ネットフリックスが無視した理由には、犯罪組織をアシストしたくないとの判断があった可能性がある。私はそれだけではなく、ネットフリックスのビジネスモデルが成功していることも重要な理由だと考えている。

 メディア企業によるコンテンツ(番組やニュースなど)の提供方法が放送や映画館、DVDなどの物理的媒体しかなかった時代では、メディア側が設定した条件(時期や高額な料金)のもとでしかコンテンツを入手できなかった。だからこそ、著作権を侵害してでもコンテンツを手に入れたいという誘惑に駆られる人が多かったのだ。

 ネットフリックスは番組を豊富に蓄積し、それらをインターネットで比較的安い料金で多くの人に配信するというビジネスモデルを構築している。コンテンツ保護技術の採用を止めているわけではないが、ネットフリックスにとって、違法コピーの脅威はそれほど大きくない。視聴者がわずかの料金の支払いを惜しんで違法コピーされた番組を手に入れたとしても、画質の悪さにイライラさせられたり、コンピューターウイルスに感染したりするからだ。そんな不愉快な思いをするぐらいなら、正規の方法で番組を楽しむ方を選ぶのは自然だろう。

 こうした事情はデータにも表れている。違法コピーの配信に使われることが多い「ピア・ツー・ピア」と呼ばれる通信方法がある。サーバーを介さずに情報の出し手と受け手が直接やり取りする方法だ。2016年に北米で受信された情報量(トラフィック)のうち、ピア・ツー・ピアによるものは1.73%でしかなかった。03年にはこれが60%を占めていたことを考えると、この数字の低さがよくわかる。

 ネットフリックスのビジネスモデルにはもう1つの強みがある。公開後にコンテンツをいつでも見られるようにしていることだ。

 映画には「ウインドー」、テレビには「シーズン」と呼ばれる公開時期の制限がある。映画を最初に楽しめるのは映画館だ。映画館での公開時期が終わると、航空会社などに配信する権利を渡す。テレビも番組が放映される日時と期間(例えば4月から6月までの毎週金曜日午後8時から9時など)が決まっていて、それ以外の時間帯では番組を視聴できない。視聴者や映画ファンには、コンテンツを待ったり、見逃したりするかもしれないという不満があり、違法コピーはそこにつけ込んだ。だが、ネットフリックスの利用者にはそうした不満は起きない。

 しかもネットフリックスは一定の料金を払えばいくらでも番組を楽しめるという仕組みにしている。もし、ハッカーたちが違法に配信した番組をみた人がいて、彼らがその番組を面白いと思ったら、ネットフリックスに加入する可能性はかなり高いだろう。ハッカーたちはもしかしたらネットフリックスの宣伝をボランティアで行ったことになるのかもしれない。

[日経産業新聞2017年5月30日付]


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