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高齢者は成功体験を押しつけず、本質を伝える努力を
ライフネット生命保険会長 出口治明

2017/4/27付
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 私ごとで恐縮ですが、6月の株主総会をもってライフネット生命の会長職を退任することを決めました。ライフネット生命の準備会社を立ち上げたのが2006年10月でした。戦後初めて、ゼロから生命保険会社をつくるという「ライフネット生命プロジェクト」をスタートさせてから、早いものでもう10年以上が経過しました。

1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、72年に日本生命保険入社。08年ライフネット生命保険開業。13年6月より現職。

1948年三重県生まれ。京都大学を卒業後、72年に日本生命保険入社。08年ライフネット生命保険開業。13年6月より現職。

 インターネットで生命保険を販売するという世界でも類を見ないチャレンジであったため、これまでは創業者である僕自身が陣頭指揮を執ってきました。経営がある程度軌道に乗ったので、次の10年を見据え、30代の新任取締役2人にバトンタッチし、僕は後陣に回ることにしました。

 よく「出口さん、ライフネット生命を辞めて、次は何をするのですか」という質問を様々な人から受けます。僕は創業者として、次の世代の育成やライフネット生命を世に広めていくことを中心に、引き続き仕事をするつもりです。

 野球に例えるなら、僕はこれまで先発ピッチャーとして試合をつくってきたと言えるでしょう。これからは若い選手を育てるためにバッティングピッチャーとしての役割を務めるといったところでしょうか。

 実は、この「次の世代のために」という考え方は、人間は何のために生きているのか、という根源的な問いに基づいています。

 僕は無類の本好きで「歴史オタク」でもあります。この問いを突き詰めていったところ「人間も動物なのだから、次の世代のために生きる、生かされているのだ」という見解にいきつきました。であるならば、僕を含めた高齢者にも、生かされている役割があるはずなのです。

 それでは高齢者の役割とは何でしょうか。人間は誰しも、未来を予測することはできません。残念ながら、過去の歴史や経験から学ぶしか方法がありません。

 過去に起きた事象を学び、それと類似の事象が起きたときに、過去の事例を参考にして判断する――。僕たちはそうやって生き抜いていくしか方法はないのです。過去の知見や経験が重要なファクターになるのです。

 過去の事例を参考にして判断するしかないのなら、長く生きてきた高齢者の役割は、自身の「知見」や「経験」を、次の世代に引き継いでいくことに尽きるのではないでしょうか。

 では、高齢者は次の世代に具体的に何を伝えるべきなのでしょうか。

 ともすると、過去の成功体験やその時代に培われた価値観を押しつけてしまいがちです。「俺が20代のころは徹夜で頑張ったものだ」。こういうセリフを吐く人がいますが、これは根拠のない精神論にしかすぎません。

 そうではなく、50年、60年と生きてきたなかで、何が変わらないもの(普遍的な本質)で、何が変わるもの(例外)なのかを整理し、前者を伝えていく努力をすべきだと考えています。

 普遍的な本質を次の世代に伝えようとするときに「すべてが伝わるはずだ」と勘違いしないことも重要です。

 過去の歴史をみてみると、死ぬ気で思いを伝えようとしても、その1割も伝わってないケースがほとんどだとわかってきました。ですから「自分の思いの1割でも伝われば御の字」という気持ちで、焦らずじっくりと次の世代と向き合っていくのがよいのではないかと僕は思っています。

 どのような組織でも、高齢者の生きる価値は、若い次の世代に自分の経験を引き継いで、育てることにあるはずです。自分の知見・経験を伝え、次の世代のために、明るい未来をつくる努力をする。それが自分自身が楽しい人生を送るためのベストの方法のような気がしてなりません。

[日経産業新聞2017年4月27日付]


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