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「無精さと魔法」がITによる業務革新を生む
ITジャーナリスト/コンサルタント 林信行

2017/4/6付
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 たまに電子メールに添付された奇妙な返信用参加票を受け取る。氏名や所属などの見出しの後にカッコが書いてあり、その間に十数個のスペース(空白)がタイプされている。

最新の技術が生活や文化に与える影響を25年にわたり取材。マイクロソフトやグーグルのサイトで連載を執筆した他、海外メディアに日本の技術文化を紹介している。東京都出身。
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最新の技術が生活や文化に与える影響を25年にわたり取材。マイクロソフトやグーグルのサイトで連載を執筆した他、海外メディアに日本の技術文化を紹介している。東京都出身。

 あれはどう返信するものなのか。空白を削除してから名前を書き込んだり、カッコごと削除して左詰めで名前を書いたりするなどやり方は様々だ。回収した側では、担当者がその名前をコピー&ペーストしたり、打ち直したりして参加者一覧を作成しているに違いない。

 なぜこんな書類ができているのか。おそらくインターネットが普及する前の習慣の名残なのだろう。当時は紙の返信用参加票を郵送し、受け取った側は氏名や所属を書き込んでからファクスで返信していた。この習慣が意味もなく、引き継がれている。まさにIT(情報技術)の「昭和的活用」だ。

 デジタルに精通した若い人に裁量を与えていれば、米グーグルの「Gスイート」のフォーム(文書・電子メール作成)機能などを使っているだろう。そうすれば電子メールそのものが返信票になり、いちいちワープロソフトなどで開く手間が省ける。電子メール上の空欄に名前などを書き込めば、それが自動的に集計表になるため、打ち間違えが起きる心配もない。

 奇妙な参加票を送ってきた企業でも、Gスイートの利用を提案した若手社員がいただろう。だが、自分がわからないのが嫌なため「この作業は昔からこうやっている」と押し付けた古株の上司がいたのかもしれない。

 タブレットが社会にもたらした変化などを調べると、パソコン時代のIT革命の恩恵を受けていない領域ほど大きなイノベーションが生まれている。半面、恩恵を受けていた領域の人たちは、タブレットの利便性を十分に生かしていない。

 例えば、文字を打ち込みやすいようにキーボードをつないだり、パソコンで使い慣れている事務用アプリを入れたりしている。これではノートパソコンがタブレットに置き換わったにすぎない。

 メモを取りながら議事を録音したり、会議の書類をプリントせずに参加者同士で確認しあったりするなど、いくらでも新しい使い方はある。しかし、何か新しい道具が出てきても、慣れたやり方をなぞってしまうのが人間の性質だ。

 どうしたら日々の業務に革新をもたらせるのか。私は2つのキーワードがあると思っている。

 1つは「無精さ」だ。面倒な作業がある場合「もっと楽にこなせないか」と考えるところから効率化は始まる。同じような悩みを持っていた人がどう解決したのかがわかれば幸運だ。見つからなくてもそれを実現するためのIT活用法を探してみることだ。

 もう1つが「魔法」だ。「十分に発達した科学は魔法と見分けがつかない」とはSF作家アーサー・C・クラークの言葉だ。「もし魔法が使えたら」と想像してみると、スマートフォン(スマホ)やタブレットのアプリなどがそれをかなえてくれたりすることが多い。

 パナソニックは日本語で話すと英語や中国語などに訳してアナウンスできる「メガホンヤク」を開発した。グーグルもスマホのカメラで外国語の単語をかざすと日本語に変換して表示する「グーグル翻訳」というアプリを提供している。

 私に魔法というキーワードを気づかせてくれたのは「元素図鑑」という電子図鑑をつくったセオドア・グレイ氏だ。彼は「この本が(ファンタジー小説の主人公の)ハリー・ポッターの世界にあったら」と考え、写真が飛び出るように見せたり、爆発の瞬間を再現できたりするようにした。

 やり方を固定せず、仕事の本質は何かを見据える必要がある。最善の方法を見いだそうとする力は、会社の競争力を高める上でも欠かせない。

[日経産業新聞2017年4月6日付]


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