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「炭素価格」に企業はどう向き合えばよいか
三井物産戦略研究所シニア研究フェロー 本郷尚

2017/3/2付
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 経済産業省や環境省など政府の委員会、さらには企業や非政府組織(NGO)が参加するセミナーなど場所は様々だが、炭素排出量に価格を付ける「炭素価格」についての議論が増えてきた。低炭素社会実現にむけた大事な議論なだけに、難航しているようだ。

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 「炭素価格導入で投資行動が変わる」「消費者に気づきを与える」「炭素税は社会保障充実の財源にもなる」など、炭素価格導入を支持する意見もある。これに対して「炭素価格導入はイノベーション資金を奪う」「排出量取引は価格の変動が大きく投資シグナルにならない」「既に十分なエネルギー課税だ」といった反対意見もあり、ギャップは大きい。

 また、炭素価格が意味するものは一つではないため、議論がかみ合わない場合もある。

 政策では、それは炭素税と排出量取引を指す。一方、企業にとっては炭素の排出に伴う追加コストが炭素価格だ。つまり企業が使う炭素価格は「将来的に排出規制が導入・強化された場合の仮置きのコスト」である。「企業に炭素コスト導入を求めよう」と言っても、排出規制強化の見込みがなければ効果はない。論点ごとに整理が必要だ。

 もう一つ気になるのは排出コストの価格転嫁が十分に議論されていないことだ。

 炭素税であれ、排出量取引であれ、エネルギーを消費し、二酸化炭素(CO2)を排出すればコストが顕在化する。

 サプライチェーン(供給網)の各段階で製品やサービスに排出コストを上乗せする一方、価格上昇による競争力低下を避けるためにCO2排出を抑える努力をする。その図式は、原材料コストや消費税の上乗せと変わらないはずだ。

 コスト増は最終需要者が負担することになり、企業の収益が炭素価格分だけ減るわけではない。ただ国際市場での競争や類似製品との競争を含めて、ライバル企業も同様にコストを転嫁することが前提だろう。政府に競争環境の整備を求めてもいいのではないか。

 制度整備には時間がかかるだろうが、金融では規制強化を先取りする動きもある。CO2排出量の開示要求がそれだ。

 しかし、産業特性や立地先でのエネルギー構成、政策など、企業を取り巻く環境を考えれば排出量の多寡だけでリスクは評価できない。

 そこで炭素価格活用の有無の質問や、さらには20カ国・地域(G20)の金融当局会合の下で気候変動リスクを検討しているタスクフォースでは、経営が前提とするシナリオの情報開示も求めている。「気候変動問題に関してどのような世界観を持っているか」という重い質問だが、企業の戦略作りでは普通のことだ。

 米国の新政権、欧州連合(EU)諸国の選挙など政治の不透明さもあるが、低炭素化の流れは変わらないのではないか。

 日本にとって、2020年に予定されるパリ協定の削減目標見直しは、分岐点となる。平均気温上昇を「2度未満」に抑える目標への道筋を考えるために科学的な知見は不可欠だといえる。

 19年に発表予定の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)特別報告は、削減目標に影響を与えそうだ。企業が30年以降を見据えた長期戦略を考えるとき、国際枠組みと気候変動科学について「定点観測」が欠かせないだろう。

[日経産業新聞2017年3月2日付]


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