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読み書き聞き話す AI時代こそ「当たり前の力」
「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクター 新井紀子

2017/3/2付
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 次の学習指導要領が間もなく発表される。まさに人工知能(AI)時代を生きることになる子どもたちをいかに育てるかを規定する指導要領である。ただし、その議論が始まった2011年ごろには、私たちにはまだ「AIとともに生きる2020年代」の明確なイメージはなかった。

あらい・のりこ 一橋大学法学部卒、米イリノイ大学大学院数学科修了。理学博士。2006年より国立情報学研究所教授。「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクターを兼務。
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あらい・のりこ 一橋大学法学部卒、米イリノイ大学大学院数学科修了。理学博士。2006年より国立情報学研究所教授。「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクターを兼務。

 AIを使いこなせる高度プログラミング能力が必須だという人、論理的な活動はAIがするので情操を育てたほうがよいという人、自動翻訳で英語教育は意味がなくなるという人――。まさに百家争鳴の様相であった。

 そうした時代を背景に「ロボットは東大に入れるか」のプロジェクトが始まった。プロジェクトを第5世代コンピューター(高度な知能を持ったコンピューター)のリバイバルと皮肉る人もいた。だが、開発したAIが13年に一部の大学に合格できるだけの成績を残すと風向きが変わった。

 AI時代は便利な未来だけを意味するのではない。ドラえもんのいる世界でのび太に職が見つかるか、ということも意味する。そのことに人々は気づいたのだろう。

 同じ年、英オックスフォード大学の研究グループは30年ごろまでに米国の職業の半数が機械に代替されるという予測を発表した。「消える職業」のリストには、銀行の融資担当者、保険の審査担当者、パラリーガル(法律家補助員)、公認会計士、スポーツ記事の執筆など、高学歴や資格を必要とする職業も並んだ。

 私たちの5年間にわたった研究の結果、以下のような結論に達した。「現在の理論とそれに基づく近未来のデータと技術の下では、相手と意思疎通をし、状況を的確に判断し、人と協力しながら問題解決を図るようなAIを生み出せない」

 「ニューラルネットワーク」と呼ばれる一連の技術は、人間のように少ない事例から一般化をすることはできない。「意味」とか「技術」のような抽象概念を扱うこともできない。それを扱うための数学の枠組みがそもそも存在しないのだ。

 「未来のことはわからないではないか」と反論する人もいる。確かにそうだ。だが、仮に「意味を理解するAI」が生まれるなら、それらを支える理論、つまり、数学の世界で革命が起きたときである。理論の準備なしにAIが完成する、というのはSFの世界でのみ起こり得る奇跡だ。

 一方、私たちの研究は、もっともらしい小論文を書いたり、穴埋め問題に答えたりすることについては、AIが人間以上にうまくできることを示した。AIは教科書やウィキペディアを丸暗記し、必要な知識を検索して切り張りできるからだ。研究で使ったAIの「東ロボ」は、東大世界史模試の600字の論述問題で、人間の受験生に後れを取ることはなかった。

 オックスフォード大の分析が正しいのなら、銀行や保険の審査や会計処理、スポーツ記事の執筆には、抽象概念の操作や他者との協力はそれほど必要ではない。過去のデータから類似事例を見つけ出し、型どおりに当てはめるという作業が占める割合が圧倒的に多いということなのだろう。

 では、人はどうすれば労働市場で生き残れるのか。実はそれほど難しいことではない。よく見、よく読み、よく聞き、よく書き、よく話す能力。本来、初等中等教育が目指していた、そうした当たり前の能力さえ全員が身に付けられるのなら、AIの時代を恐れることはない。なぜならAIには意味が分からず、真の意味で言葉を運用することができないからだ。

 ただ、この当たり前を中学校卒業までに全員に身に付けさせることは、国内総生産(GDP)を今の2倍にする以上に難しいだろうけれど。

[日経産業新聞2017年3月2日付]


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