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春秋

2017/2/10 2:30
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 エィッと、悪いやつらに銭が飛ぶ。江戸のヒーロー、銭形平次親分の得意技だ。生みの親の野村胡堂は、大のクラシック音楽好きでもあった。40年間に集めたレコードが1万数千枚。重さで家がひっくり返ったと噂もたった。「あらえびす」の名で多くの評論も書いた。

▼生演奏などめったに聴けない戦前、重いSP盤を抱え、全国を講演で回った。大学生の長男が病床で、ヘンデルの「メサイア(救世主)」の総譜を読み、全曲を聴きたがった。英国から全18枚を取りよせたが、聴けずに亡くなる。楽譜は棺(ひつぎ)に納めて、母校で全曲をかけた。3千人の学生が集まり、後々まで語り草になった。

▼ヘンデルと並ぶ巨匠、バッハの自筆譜が地元ライプチヒに戻り式典が行われた。ナチスの蛮行から逃れて国外に流出し、没後約260年の里帰りとなった。曲は「おお永遠、そは雷(いかずち)のことば」。罪悪には永遠の苦しみが待つと歌う。早く両親をなくし苦労を重ね、ひたすら神に捧(ささ)げる音楽を作り続けた大家の人柄がにじむ。

▼胡堂は書斎にバッハの肖像を飾り、レコードを聞きながら書いた。父の死で学費が続かず、帝大法科を中退。30年いた新聞社では、社会部長などを務めた。とりわけ、法をすりぬける不正や汚職をにくんだ。罪悪をいとう音楽家の姿勢にも共感したのだろう。耳をすませば、活劇の向こうから、心を洗う調べが流れてくる。

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