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「立派な選手になる幸せ」共有 パラ陸上・ポポフ(上)

2016/12/19付
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 リオデジャネイロ・パラリンピックでの振る舞いが忘れがたい印象を残す。

 大腿切断などで義足の選手らが参加するT42クラスの陸上男子走り幅跳び。ドイツ代表のハインリッヒ・ポポフは、5回目の試技に向かう日本の山本篤の肩をそっとたたいた。「もっといけるよ、君ならできるという意味だった」

リオ・パラリンピック走り幅跳びで金メダルに輝いた

リオ・パラリンピック走り幅跳びで金メダルに輝いた

 このときポポフは6メートル70を跳んで1位、山本は6メートル62で2位につけていた。五輪であれば、競技中に金メダルを争うライバルを激励する姿を見ることは、まずない。逆にプレッシャーを与えようとしたとも批判されかねない。だが山本は「がんばれよ、というふうに受け取った。動揺はしなかった」と、ポポフの行為に理解を示す。

 ダニエル・ワグナー・ヨルゲンセン(デンマーク)を加えた3人が今年、世界記録を更新しあうという、パラスポーツ史上まれに見る三つどもえとなり、注目された戦いだった。

 それでもポポフはこの時、「戦っている気がしなかった」という。「山本が僕の記録を抜いてもかまわなかった。誰かを破ることじゃない。お互いに立派なパラリンピアンになるという幸せをシェアすることの方が大事だった」

 障害者がスポーツで競う姿を見せることが、社会変革につながるというパラリンピックの意義。五輪も本来、平和運動だったが、商業化・プロ化が進み、選手に勝敗より理念を優先させる余裕はなくなりつつある。メダルよりも共感というパラリンピックの良心を信じられるポポフの純粋さが際立つ。

100と走り幅跳びで世界記録、圧倒的な力持つ

 もちろん実力が伴わなければ、ナイーブな独り言と切り捨てられるだろう。だがその力は圧倒的だ。21歳で初めて参加した2004年アテネ大会100メートル、200メートル、走り幅跳びで3つの銅メダル。100メートルは北京で銀、ロンドンでは金メダルに輝いた。リオの走り幅跳びでの戴冠も含め、計8つのメダルを獲得している。100メートルと走り幅跳びは今も世界記録を持つ。

 左足の膝付近で切断して義足を履くポポフについて、NHKの番組の依頼で走り方を計測した産業技術総合研究所の保原浩明は「日本の義足アスリートとは全く逆の強さを持っていた」と驚嘆する。

 日本選手は義足で前へ進む力を生み出しているのに対し、ポポフは義足の動きは人並みなのに、健足(健康な足)で非常に大きな推進力を出していた。しかも、健足の動きの80%が前に進む力に使われており、「地面に足をついてから推進力への切り替えを0.03秒という、目にもとまらぬ速さで行っている」と保原は解説する。

 ポポフの腰回りのたくましさは、義足側に比べ健足側が目を見張るほど。残された機能を最大限に鍛える努力をしたことを物語る。「選手同士助け合って成長したい」とパラリンピックの価値を信奉する聖人は超人でもある。

(敬称略)

〔日本経済新聞夕刊12月19日掲載〕

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