ブックレビュー

フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

貘の檻 道尾秀介著 事実と幻想が交わるミステリー

2014/6/9付
共有
保存
印刷
その他

 福島県の山村で起きた奇怪な神隠し事件を東京の霊現象探求家が調べにいく――。道尾秀介のデビュー作『背の眼』は『八つ墓村』等、戦後の岡山の山村を舞台にした横溝正史の作品を髣髴(ほうふつ)させるホラーサスペンス調の本格ミステリーだった。

(新潮社・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)
画像の拡大

(新潮社・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 実はその当時、ミステリーについてはほとんど知識がなかったと著者は明かしているが、ファンはいつかまた横溝タッチのミステリーを書いてほしいと願っていたに違いない。

 本書『貘(ばく)の檻(おり)』は、まさにそんな要望を叶(かな)えてくれた長篇だ。

 主人公の大槇辰男は職を失い自殺未遂を起こしたうえ、心臓を患って医者にかかり、そこで不正に手に入れた薬に溺れかかっている。心身ともに疲弊した辰男は、久しぶりに息子の俊也と会った帰途、駅で女がホームから落ちて死ぬところを目撃するが、女は彼が少年時代を過ごした長野県O村で行方不明になった曾木美禰子であった。

 32年前、O村の農業組合長が殺され、辰男の父・石塚充蔵に容疑がかけられた。そのとき美禰子も行方不明になったのだが、やがて充蔵は村の水路で遺体となって発見され、一連の事件は未解決となる。辰男は美禰子の死をきっかけに俊也ともどもO村を訪れ、過去の真相を探ろうとするのだが……。

 横溝作品ならそれを契機に連続殺人が起きるところ。大槇父子と時を同じくして、金田一耕助めいた写真家/郷土史研究家の彩根という男も村に現れるとなればなおさらだが、著者はいたずらに猟奇には走らない。

 むろん本書でも俊也が失踪したり、それにまつわる奇抜な捜索が行われたりするのだが、著者は血腥(なまぐさ)い殺人事件の代わりに薬物が引き起こす辰男の悪夢を通して、過去と現在、事実と幻想が交錯する独自のミステリー演出を展開してみせるのだ。

 その過程から浮かび上がってくるO村の歴史や習俗にもご注目。名主ともう一軒の旧家を中心に開けた土地は不毛の地であったが、のちに水路がめぐらされ、山中には水源から水を引くため穴堰(あなぜき)というトンネルも掘られた。稲作の盛んな美しい山村だが、その生活にはまだ古いしきたりが根付いていた……。

 著者はまた、癖の強い土地の言葉も駆使して謎や恐怖の効果を高めているが、それらがミステリーというジャンルの枠を超えた小説的興趣を生成しているのはいうまでもない。謎解きに恐怖心理、親子の葛藤、男女の愛憎、そして弱者の救済等、デビュー作からその後に開拓した小説趣向まで洩(も)れなく取り込んだ道尾流の集大成である。

(コラムニスト 香山 二三郎)

[日本経済新聞朝刊2014年6月8日付]

貘の檻

著者:道尾 秀介
出版:新潮社
価格:1,944円(税込み)


※価格情報は掲載時のものです。

ブックレビューをMyニュースでまとめ読み
フォローする

Myニュース

有料会員の方のみご利用になれます。
気になる連載・コラムをフォローすれば、
「Myニュース」でまとめよみができます。

共有
保存
印刷
その他

電子版トップライフトップ

関連キーワードで検索

道尾秀介

【PR】

【PR】

[PR]

映画館検索