金の仔牛 佐藤亜紀著 18世紀欧州のマネーゲーム

2012/11/6付
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 18世紀ヨーロッパは詐欺師の時代だった。彼らペテン師によって国政、経済、文化がどれほど甚大な影響を受けたことか。たとえば有名なところでは、色事師カサノヴァ、錬金術師カリオストロ、国際的山師サン・ジェルマン伯爵、そして史上初の経済学者ジョン・ローなどの暗躍。

(講談社・1600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)
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(講談社・1600円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 いまあげた人物たちの中で最大のイカサマ師にして大天才は最後のジョン・ローだろう。なにしろ、チューリップ狂時代(オランダ)や南海泡沫(ほうまつ)事件(イギリス)とともに史上3大バブル経済の喩(たと)えのひとつとして知られるミシシッピ計画(フランス)の仕掛け人である。

 「需要と供給で価格が決まる」という法則を発見したジョン・ローの巧みな市場操作によって、パリでバブルが発生したのが1719年から20年のこと。本書は、そうしたミシシッピ会社に対する熱狂的な投機ブームを背景にした歴史経済小説の秀作だ。

 若き追い剥ぎアルノーは襲った老紳士から1枚の紙切れをもらう。いわゆる「紙幣」という代物。その紙切れを集めて王立銀行の所有するミシシッピ会社の株を転がせば大儲(もう)けができるらしい。謎の老紳士の手先となって働くアルノーは、みるみるうちに株式相場の金融錬金術師となり、いつのまにか美女を愛人とする富裕な青年実業家に! だが、その麗しき乙女のおかげで思わぬ落とし穴が……。

 こうした大筋に加え、裏街道を歩む故買屋、泥棒の親方、冷酷非情な貴族、老獪(ろうかい)な投資家、策士にして金細工師の3兄弟、狡猾(こうかつ)な金貸しなど一癖も二癖もある魅力的なキャラが狐(きつね)と狸(たぬき)の騙(だま)しあいよろしく命をかけたマネーゲームを繰り広げるさまがスリリングかつ知的に語られる。

 もちろん、紙幣というのは経済システムにおける関係性と信用というあやうい場に生成する表象作用であり、それは記号=言語と完全に同じものだ。となると紙幣(同様に株)もまた言語と等しく多義性・曖昧性をはらみ、意味のインフレーションをおこす。本書は、そうしたお金=言語をやりとりする人間たちの錯綜(さくそう)した不確実性をも省察した、実に今日的な文芸作品である。

(翻訳家 風間賢二)

[日本経済新聞朝刊2012年11月4日付]

金の仔牛

著者:佐藤 亜紀.
出版:講談社
価格:1,680円(税込み)

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