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春秋

2012/9/8付
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 ある日、繁華街のチェーン系居酒屋で。「えーと、日本酒ください」「冷酒ですか、熱燗(あつかん)ですか」「ぬる燗くらいにして」「え、何すか? それ」。別の日、郊外の和食の店で。「すみませーん、こちら酒。お燗でね」「かしこまりました。6番テーブルに熱燗1本!」

▼もうだいぶ前からだが、日本酒のお燗をぜんぶ熱燗と呼ぶ飲食店に、しばしば出くわす。そして実際に、やってくるお銚子は手も触れられぬ熱さなのだ。酒には日向(ひなた)、人肌、ぬる燗、上燗、熱燗とあって……などと講釈する気はないけれど、キンキンに冷やしたのかヤケドするような高温かの二者択一ではオジサンは困る。

▼こんなつぶやきを記してみたのは、東京あたりでもかすかに秋を感じて、ほの温かい酒がうまくなってきたからだ。何ごともハッキリクッキリ、白か黒かの単純さに人気が集まるご時世だが、こと日本酒はこれからの季節、中庸がなかなかよい。「新涼や尾にも塩ふる焼肴」(鈴木真砂女)。この食卓の酒はどんな塩梅(あんばい)か。

▼またある日、近所の焼鳥屋で。「まず、冷やで一杯もらおうかな」。運ばれてきたのはコップの水だった。「これはお冷や。冷やといったら冷や酒のことだ」「なら、常温と言ってもらわないと」。日本語がややこしいのか常識が通じなくなったのか、酒をひとすすりして肩をつねってみる。気がつけば、日が短くなった。

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