名高い4幕の名作が2時間と少しで楽しめる。喜劇人、三谷幸喜の演出した軽快な舞台はチェーホフ・ファンならずとも一見の価値あり。
農奴出身のロパーヒンが成り上がり、君臨していたラネーフスカヤ夫人は桜の園を競売にかけられる。今の日本じゃないけれど、現実に適応できない人間が沈み、めはしのきく者が浮上するというだけの話。作者も喜劇と断っている。滅びの美に光をあてる荘重な上演と一線を画し、文字通り笑いとばそうとの狙いに大賛成。
浅丘ルリ子のラネーフスカヤ夫人はふわふわ生きている実体のなさが出ているし、その兄の藤木孝の無力さもくっきり。子供部屋の夢の世界から出られない人間の没落は当然のむくい、笑うほかない。
演出家はロパーヒンを奇怪な男に造形し、説得力があった。市川しんぺーの暗い上昇志向は、落ち目の人間のいい加減さを暴きたてる。
金欠男が地下資源のおかげで大枚を手にする話はまるでバブル経済の手品。ラネーフスカヤの養女ワーリャとロパーヒンが恋心を寄せ合うシーン、手品のようにうまく運べばハッピーエンドだが……。手品みたいな人生ゲームでは誠実さがあだになる。
ワーリャの神野三鈴が確かな存在感で、フィールスの江幡高志のさりげなさに喜劇の間があった。テンポのいい台本(小野理子訳に基づく三谷の翻案)に加え、上手に大きな窓を配した装置(松井るみ)が効果的。ピアノの生演奏(荻野清子)が人物描写を補い、軽みをもたせた。
善戦だけれど、この労作をへても、いまだ爆笑のチェーホフとは出合えない。表層の笑いでは届かない何かがある。チェーホフは手強(てごわ)い!
(編集委員 内田洋一)
7月8日まで、東京・パルコ劇場、7月12~22日、大阪・森ノ宮ピロティホール、7月25~29日、横浜・KAAT神奈川芸術劇場。
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三谷幸喜、チェーホフ・ファン、浅丘ルリ子、神野三鈴
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