出版業界、電子書籍に危機感 法的権利の確保に奔走
利害が対立、法制化は難航も

2012/3/19付
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 電子書籍の普及につれ、出版業界が法的権利を確保しようと躍起になっている。レコード会社や放送局は著作物について「著作隣接権」という独自の法的権利を認められ、侵害対策に取り組んでいる。一方、隣接権のような権利を持たない出版業界は、電子書店と作家が直接契約を結び除外されないか危惧している。

出版社に「隣接権」を与えるよう求める作家・出版関係者と議員との懇談会が開かれた(衆院第1議員会館)

 2月半ば、衆院第1議員会館。自民党・公明党合同で出版関係者や作家らとの懇談会が開かれた。作家の浅田次郎氏が「出版社に法的権利がないと、(業者が書籍をスキャンして電子データにする)“自炊代行”のような侵害訴訟を提起する場合、作家個人が原告とならざるを得ない。活字文化の危機だ」と訴えた。

 出版業界は出版物の利用に対する法的権利を受けられるよう、以前から要望してきた。1980年代半ばには業界団体が出版物のコピーから出版社を保護する独自の権利創設について要望書を文化庁に提出。90年には文化庁の小委員会がコピーの報酬請求権を出版社に与えるべきだという報告書をまとめたが、利用者団体の反対でなお法改正は実現していない。

 再び法改正の論点に浮上したのが、2010年11月に設置された文化庁の検討会議。電子書籍普及に向けた課題の一つとして議題に上ったが、昨年12月にまとまった報告書は、(1)電子書籍市場への影響について、出版社などによる検証(2)文化庁内での法制面の課題整理――の2点が必要として審議は継続となった。ある出版関係者は「ビジネスの世界に比べてスピードが遅すぎる」と、結論が先延ばしされたことにため息をもらす。

 文化庁の検討会議では「多くの国では出版社に隣接権のような独自の権利を与えていない」「新たに権利者が増えると円滑な利用が妨げられたり、電子書籍市場への新規参入が阻まれたりする恐れがある」といった趣旨の意見が出た。ヤフーの別所直哉・法務本部長は「隣接権でなくても、電子化のための商慣行の近代化や海賊版対策強化という目的に合った方法がないか精査すべきだ」と話す。

 著作権者である作家の間で意見は分かれている。前出の浅田氏のほか三田誠広氏は「米国のように著作権そのものを出版社に委託するのと比べ、はるかに作家の権利が守られる」と、出版社に隣接権を与えることを支持する。

 一方、漫画家の里中満智子氏は「権利設定の仕方によっては、作家が手元にある原稿を自由に電子書籍化できなくなるのではないか」と指摘する。「紙の書籍をそのままコピーしたものだけに出版社の権利が及ぶのか、完成形に近ければ作家の手元の原稿でも及ぶのか、現時点では不明」(著作権問題に詳しい小倉秀夫弁護士)なためだ。

 自公両党に民主党も加わった別の勉強会でも議論が進行中。関係者の利害が対立している問題だけに、法制化は今後難航することも予想される。

(瀬川奈都子)

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