吉野家ホールディングス傘下の吉野家が今月7日、280円の新商品「牛鍋丼」を発売した。牛丼の値下げで売上高を伸ばす同業のゼンショーや松屋フーズに対し、380円の価格を据え置いた吉野家は、8月まで18カ月連続で前年割れと苦戦が続く。低価格商品で巻き返せるか。安部修仁社長に聞いた。

――苦戦が続いた理由をどう分析する。
「既存店売上高が落ち込んだ最大の要因はゼンショーと松屋フーズの値下げだ。もともと2009年は前年比4~5%減と業界平均並みで推移していたが、2社が値下げした昨年12月以降は15%落ち込んだ。同業他社との価格競争は考えなかった」
「私自身の反省もある。07年に持ち株会社に移行して以後、現場からは一歩引いてグループ経営に専念してきた。だが、今年4月からは事業会社の吉野家社長を兼務し、8割以上のエネルギーを吉野家に割いている。落ち込んだ売上高を回復させる即効性のある対策は低価格商品の発売しかなかった、と私は思う。ただ、別の執行者に任せていたら、また異なる有効な方法をとったかもしれない」
――牛鍋丼の手応えは。
「先行して牛鍋丼を出した実験店では客数は23%増、売上高は12~13%増、粗利益は10~11%増だった。現在、既存店の業績はそれを上回っている。想定では牛鍋丼と牛丼の注文比率は1対2だったが、現状では逆に2対1。10月に280円の牛キムチクッパを出す。売上高の落ち込みは、この2品で取り戻せる」
――外食や牛丼業界の先行きをどうみているか。
「どう考えても縮小する。人口も減るし、所得水準も低下するだろう。昨年から売上高が5%減少する前提で利益が10%上がる政策を考えてきた。目先は低価格商品を出したが、中期的には違う対策が必要になる」
――具体的には。
「吉野家は長く1店当たり年商が1億円以上の経営モデルでやってきた。1店で1日700~900人の客数を想定したが、オーバースペックになっている。500~600人でも利益が出る次世代型の店舗づくりに転換する。吉野家は業界の中で財務基盤は1番強い。改革にかかる時間を耐える体力はある」
「客数を増やすために新しい店では開放感、清潔感、環境配慮も重要になる。例えばキッチンを客に見せる店などを考えている。ここ数か月はわずかに抜かれたかもしれないが、従来、1店当たりの売上額、利益額はすき家に負けたことがなかった。牛鍋丼投入後の9月は吉野家が再び上だ」
<聞き手から一言>ローコストの体制づくり急務
吉野家の置かれた状況は10年前と大きく異なる。国内店舗数はゼンショーのすき家に抜かれた。牛丼業界をけん引してきた吉野家も、松屋フーズも含めた競合2社の仕掛けた価格競争に巻き込まれた。
ゼンショーはファミリーレストランを含め幅広い分野の飲食店を大量出店し、調達費低減を進める。牛丼にほぼ集中する吉野家は、独自のローコスト運営体制を築くことが喫緊の課題だ。会社更生法申請を乗り越え、多くの困難を克服した同社のDNAが再び問われている。(小林宏行)
安部修仁氏の略歴 1972年吉野家入社。92年吉野家ディー・アンド・シー(現吉野家ホールディングス)社長。61歳。







