幸福度指標は無駄 物差しより政治哲学を 元世界銀行副総裁 西水美恵子氏
インタビュー領空侵犯

2010/7/5付
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 ――「幸福度指標」を作ることに反対だと聞きました。

 「国民の幸福など測っても無駄です。そもそも幸せは測れないもの。国民総生産は生産物を市場価格に換算して足し合わせる。ところが幸福は人それぞれ、市場価格などで換算できず足し算できない。『測れるものは必ず管理される』という言葉があります。国民の幸福を無理に数値化すると、国が間違った指標を管理しようとして危険なことになります」

 「ブータンの国民総幸福量がお手本とされますが、これは誤解です。国民総幸福量は指標ではなく、ブータンが長年貫いてきた政治哲学です。前国王の雷龍王4世が海外メディアに『国民総生産より国民総幸福量のほうが大切だ』と話した言葉がひとり歩きしたのです。前国王の意図は『国民の幸せを中心に据えて国を治めるのは常識で、経済成長は幸福を実現するための手段である』ということ。国民総幸福量の追求は公共政策哲学なのです。日本の政治家は、幸福度を測って何に使うつもりなのか。必要なのは物差しではなく哲学です」

 ――幸福追求に重きを置くと、経済成長が軽視されると懸念する人もいます。

 「目的は国民の幸せ、経済成長は重要な手段です。目的と手段を取り違えてはいけません。『ブータン2020』という国家ビジョンでは、自然環境や文化伝統を破壊し、家族や友人、地域社会のきずなを犠牲にするような経済成長は追求せず、人が安らかに住める国をつくると宣言しています。こうしたビジョンを掲げながら、一人あたりの国民所得が南アジア2位となるまでの成長を遂げました」

 ――なぜブータンではうまくいったのでしょうか。

 「人口約70万人のブータンは、北に中国、南にインドと大国にはさまれ国家存続の危機感を常に抱いています。武装しても勝ち目はない。国を守るのは人心しかないのです。国民総幸福量は、国家安全保障戦略でもあります。10代で即位した雷龍王4世は、数年かけて国中を回って国民の声を直接聞き『国の安泰をもたらすのは国民の幸せだ』と学んだのです」

 「翻って日本の政治家をみると、本気度が足りない。真剣に国民の目線から国を治めようとするなら、1円も無駄にできない高齢の年金生活者の生活を1日でも体験してはどうか。国の役割は、国民一人ひとりが努力して幸せになる上での障害を取り除くことです。日本は憲法第13条で『幸福追求に対する国民の権利』を基本的人権として認めています。時間の浪費にすぎない幸福度指標より、政治のあり方を本気で考えてほしいと思います」

 にしみず・みえこ 48年生まれ。75年米ジョンズ・ホプキンス大経済学博士。プリンストン大助教授を経て80年世界銀行入行。97年に女性初、日本人初の地域担当副総裁。2003年に退職し、日本やブータンで各界リーダーの相談役に。

▼聞き手から

 先進国で幸福度指標を作る機運が高まっている。サルコジ仏大統領が提唱したほか、日本政府も検討中で、経済協力開発機構(OECD)に世界共通の指標作りを呼びかけた。否定的な意見も多いが、本来は手段のはずの経済成長が目的とみられがちな昨今、政策の手段と目的を再確認する一助にはなるかもしれない。

(編集委員 野村浩子)

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