グーグルの野望、個人情報が経済を動かす
ヘルスケア2.0 ITが医療を変える(3)

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2011/7/12 7:00
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 個人の診察履歴や地域の健康情報などをうまく使えば医療の高度化に役立つ可能性がある。だが個人情報保護の観点から医療データの活用は塩漬けにされてきたのが現実だ。米国ではグーグルをはじめとして、医療費高騰への対応策として医療データを集積・解析・転用し、コストの安いサービスにつなげる仕組みが次々と登場している。医療情報が経済を動かす時代が幕を開けた。

米カリフォルニア州マウンテンビュー市のグーグル本社
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米カリフォルニア州マウンテンビュー市のグーグル本社

 「国債利回りにも影響を与える非常に重要な問題だ」。福島第1原発の事故による近隣住民の放射線被害への補償基準について東京大学の中川恵一准教授は言葉に力を込めた。5月末に都内で開かれた講演会での一幕だ。ただし今の状況では、住民や作業員らの被曝(ひばく)量の厳密な算定はほぼ不可能で、基準は「えいや、でやるしかない」(中川准教授)というのが実態だ。

 基準をあいまいにすれば、補償による財政負担は雪だるま式に膨らみ、最終的に国家の信用力や国債の利回りにもはね返ってくる。

 文部科学省や放射線医学総合研究所が放射能拡散のシミュレーションソフトを作り、仮定の被曝量を算出した上で、住民の内部被曝量の測定データも集めている。補償問題に関しては厚生労働省の原爆対策室のスタッフが投入されている。

 放射能被害に関して政府は長年にわたり原爆訴訟を続けてきた経験がある。福島の原発事故では「長く原爆や薬害訴訟にかかわった弁護士グループが頻繁に現地入りし始めている」(大手弁護士事務所幹部)。今後、訴訟の連鎖が避けられない情勢だからだ。「あいまいな対応は危険。とにかくデータを集めた上で、政治決断で基準を定めてもらうしかない」(厚生労働省幹部)。

 誰も望まなかった形で、日本でもデジタルデータで蓄積された大量の医療情報が経済を動かす時代が突然に訪れた。

 この流れを先取りしていたのが米国だ。「いい医療は安いという明確な基準」(山本雄士慶応大准教授)をもとに、政府が医療のIT化に補助金を投入。医療費の低減や治療効果の向上につながるITを優先的に採用している。さらにネットの力を使って患者などサービス利用者側の声を集めて医療を変えようとする西海岸発の社会運動「ヘルス2.0」が融合した。源流は日本出身のアキ吉川博士が創設したスタンフォード大の医療経済学講座だ。

 ヘルス2.0が理想とする姿はこうだ。患者はネットから情報を得つつ、健康データを保存し、自ら管理することで病気予防に努める。医師はネット上でコミュニティーをつくり、医療情報を自由に交換・集積・参照し、治療効果を高める――。

 様々なルートで集まった医療情報を基に低コストの保険が生まれ、製薬企業や食品会社は病気の予防につながる新しい製品を開発する。英米ではすでに政府や自治体が保有する公的医療データを公開し、民間企業がそれを利用して新サービスを生み出す流れが始まっている。

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