「後の先」の探求 横綱白鵬(4)
編集委員 朝田武蔵

(1/3ページ)
2010/12/26付
共有
保存
印刷
その他

 相撲部屋の朝は早い。5時起床。駆け出しのころ、白鵬は6時前には稽古を始めた。土俵での稽古は主に「三番」「申し合い」「ぶつかり」の3形態がある。白鵬が今も欠かさないのが、ぶつかり稽古だ。

 「前に出る稽古ね。一番苦しい稽古ですけど、スタミナが付くっていうのがあります」。ぶつかる役と、受ける役があり、一方が親の敵とばかりに体当たりする。そのまま俵まで相手をグイ、グイ、グイと押す。何番も、何番も、息が上がるまで。「まあ、普通(の力士は)5分だね。三段目のころ、45分やったことがありますね。幕下に上がったら、20、30分は毎日だったからね」

基本はぶつかり稽古

 全身砂にまみれ、土俵に倒れ込んで動けなくなる。兄弟子の竹刀が飛んできても、反応する力さえ残っていない。口に塩を突っ込まれる。最後にバケツの水がザブン。これを荒稽古というのだろう。「1日3回泣いてた。ほぼ毎日ですね。稽古場で2回、夜寝る前に1回。稽古が苦しい時、泣いて。終わった後先輩にお前のためだからって慰められて泣く。夜は、明日また稽古始まるんだっていうね。自然と涙が出てくるわけ。ふとんでね。でも当時やってたことが、今生きてるわけね」

 ぶつかり稽古に、後の先(ごのせん)のヒントがあった。

 白鵬のこの2年間は、ひたすら後の先の錬磨に費やされてきた。双葉山の相撲求道録は教則本ではない。双葉山だけが極めた奥義である以上、継承者もいない。経験則は聞けない。自分の戦略眼を頼りにDVDの粗い白黒画像を凝視するしか、他に手立てはなかった。まず分かりやすいところをまねよう。「双葉関は必ず右足から出てる。稽古場で(受け手として)胸を出す時も右足が前じゃないですか。ぶつかり稽古ね。(つまり)右足前が受ける構えっていうこと」。素直さが、ここでも彼に得をさせた。2人は同じ右四つだが、白鵬は入門以来、双葉山とは逆の左足から踏み出していた。「右足」の利点は、すぐに解読した。

 「ちょっと、教えようか」

 再び実技の時間である。

 「右足からいくと、右を差しやすい」

 着物の裾がはだけ、右足が一歩前に出ると、ずぶとい右腕が、左わき腹にグイと押し入ってきた。

 「いやでも、差せる」

  • 前へ
  • 1ページ
  • 2ページ
  • 3ページ
  • 次へ
共有
保存
印刷
その他

電子版トップ

関連キーワードで検索

白鵬大相撲

【PR】

【PR】

主要ジャンル速報

北海道 7:01
7:00
東北 7:01
7:00
関東 18:07
7:01
東京 7:01
7:00
信越 7:00
7:00
東海 22:00
22:00
北陸 7:01
7:00
関西 7:00
6:59
中国 7:02
7:01
四国 7:02
7:01
九州
沖縄
21:55
21:38

【PR】



日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報